頚筋症候群

頚筋症候群

(平成25年2月17日)


 頚筋症候群は正確には頚性神経筋症候群というそうである。松井孝嘉氏が提唱した考え方で『首こりは万病のもと うつ・頭痛・慢性疲労・胃腸不良の原因は首疲労だった!』(幻冬舎新書)に詳しく書かれている。氏は脳神経外科医で、むち打ち症の研究からあらゆる自律神経失調症が首の筋肉の疲労から起こることを観察し、この概念の提唱に至ったと書いておられる。ストレス社会である今日、多くの勤労者が抱える不定愁訴の病理を見事に解決しておられることに非常な共感を覚える。頚部の異常が自律神経失調症に関与しているという考え方は仲原漢方クリニックで行なっている鎖骨調整の考え方と一致する。

 鎖骨調整の考え方は真幸クリニックの故上原真幸先生に教えていただいた治療法であるが、阿久津政人氏の十次式健康法にヒントを得たと言われ、『超医学の謎 十次式健康法の威力』(佐藤 健著、毎日新聞社)という新書版の本を紹介された。十次式健康法では背骨の異常があらゆる病気の原因になっているので、背骨の歪みを治すという考え方である。ただこの治療法を開発した阿久津氏は獣医師で、人のレントゲンを撮ることはできなかったため、医学会で考え方を広めることはできなかったのではなかろうかと思われる。また医師でないものが医療関連行為を行うのであるから医師法との兼ね合いで微妙な問題を含んでいる。さらに施術では念力を使うため、普通の人には追試ができない。追試ができないということは学問的に広まりにくいという問題を抱えている。

 かなり以前に沖縄に阿久津氏がこられた時、上原真幸先生に『弟子になるなら十次式健康法を教えてもよい。』という申し出があったが、『私は習わなくてもできますから弟子にはなりません』と断ったと話しておられた。いずれにしても頚筋症候群、十次式健康法はこれまでの現代医学とは全く別の視点から身体の機能失調を観察し治療する点で現代医療が最も必要とすべき考え方であることは間違いない。

 一方東洋医学は、鍼灸も漢方も同じテーマすなわち自律神経失調症にアプローチできる構造を持っている。ところが現代医学的に解剖学的な異常の評価ができないため、骨格異常そのものへのアクセスができず、骨格の歪みを治すという発想に至りにくいのではないかと思われる。ところで仲原漢方クリニックではレントゲン撮影により現代医学的に骨格、特に頚椎の観察ができ骨格の異常を整復する鎖骨調整という手段を持っていること、鍼灸、漢方薬を併用できることから、不定愁訴に対して総合的に対応できる環境にある。

 最近経験した症例で多汗症の方がおられた。主訴が寒い日でも汗が流れるように出て困っているということであった。漢方には多汗症に使う処方がある。桂枝湯、防已黄耆、また緊張した時に汗をかく四逆散、更年期の汗に加味逍遥散などである。ところが漢方薬に対する反応がいまひとつであった。多汗症も自律神経失調症の一つであることの指摘から頸椎の異常がないか調べたところ、見事に頸椎の捩れがあった。そこで肩こり、首こり、頭痛について聞いたところ、長いこと頭、首の症状で悩まされているという。そこで頸椎のレントゲン写真によって針治療のあと鎖骨調整をしたら、鬱陶しい気分が一瞬に晴れ、汗の具合も何となくよくなってきているという。もう一例は更年期障害で頭痛、首こりで困っていた時に漢方薬を飲んだら激しい症状が取れたという。それで漢方薬を今も続けているというので首のチェックをしたら、レントゲンでまだ首の捩れが残っているため、針と鎖骨調整を加えた。針と漢方薬では骨格の整復までは行かないのではないかと思う。

 また念力の話に戻る。念力はその存在すら疑われる特殊な人間の能力で、誰もが使えるものではない。限られた人間のみが有する能力であるからサイエンスになりにくい。上原真幸先生は念力を使うことができたため、真幸クリニックでは念力によって歪んだ骨を矯正された。その臨床効果には眼を見張るものがあった。真幸先生は私のために、念力が使えない人でも頸椎の治療ができるようにと徒手整復的な施術を開発された。それを見よう見まねで追試することで私も鎖骨・骨盤調整がかなりできるようになった。

 同じ姿勢でうつむき、頚椎に負担をかけることが日常的な現代生活では不定愁訴が非常に多く、うつ状態として抗鬱薬などが多用されている。しかし根本的な首の問題を解決しないと根治に至らない点で、さきに述べた鎖骨調整や漢方薬、鍼灸治療は大きな意義を持っている。

 不定愁訴のキーワードは頚椎の異常である。