自己免疫疾患と心の問題

自己免疫疾患と心の問題

(平成22年10月19日)


 自己免疫疾患という難病のグループがある。免疫という考えはジェンナーの始めた種痘に始まる。人がある病気にかかれば、その病気を引き起こす病原体に対する抵抗力を獲得し、同じ病気に二度とかからない体の仕組みをさす。インフルエンザワクチンのように病原性を弱めた弱毒のウィルス株を故意に感染させ、そのウィルスに対する抗体を作らせて重症の本来のインフルエンザにかからないようにするのである。

 このように免疫は外から入り込む病原体に対する防禦機能であったのに、近年どういう訳か、免疫の仕組みが自分の身体に対して攻撃を仕掛け、自分の組織を破壊する病気が見つかってきた。これらを自己免疫疾患と呼んでいる。つまり外からの細菌やウィルスから自分を守る仕組みで、自分の身体を傷つけるような反応が起こった病気である。

 最初に見つかったのが、甲状腺組織に対する自己抗体が自分の甲状腺組織を壊す橋本病であった。組織の破壊が起こると最初は甲状腺ホルモンが漏れ出して甲状腺機能亢進症になることもあるが、進行して甲状腺が壊れてしまうと甲状腺機能低下症になり、自分の組織でホルモンをつくれないので甲状腺ホルモンを内服することになる。

 また関節の軟骨や腱など、いわゆるコラーゲンの膠原繊維に対する自己抗体ができ、膠原線維を破壊し、その結果、全身の膠原線維を含む組織に炎症を起こしてくるのがいわゆる膠原病である。その代表的な病気がSLEすなわち全身性紅斑性狼瘡という難しい名前の膠原病である。膠原線維は血管の壁の材料でもあるため、全身のあらゆる血管の炎症を引き起こしてくる。膠原線維はわかりやすく言うとテビチの軟骨の成分で、臨床症状の特徴は関節や血管、筋肉などの炎症として現れる。つまり関節が腫れて熱をもって痛み、さらに皮膚や内臓の血管の炎症により、微熱や全身の内臓の症状を起こしてくる。特に関節がやられるのが慢性関節リウマチである。そしてこれらの病気の診断に使われるのが免疫反応にかかわる血液中のさまざまな自己抗体の検出である。

 治療は炎症を抑える消炎鎮痛剤、ステロイド剤や抗がん剤を転用した免疫抑制剤が基本になる。漢方では消炎作用のある柴胡剤、関節症状を風湿とみて麻黄剤や利水剤を処方する。慢性期には駆瘀血剤が必要になる。

 リウマチや膠原病の患者さんを見て気になることがある。病気になる前のその人の心のあり様を医学的に病前性格とよぶが、これらの患者さんには共通の病前性格があるように思う。非常に生真面目、几帳面である。何でも一所懸命にやる。がんばってもできない事があると周囲に申し訳なく思い自分を責める。病気で調子が悪く、思うように仕事ができないから、症状が落ち着いたら怠けた分を取り戻そうと以前にも増してがんばろうとする。さらに、病気で思うように働けない自分を情けないと思い、自分自身を責めるのである。

 何故身体に自己抗体が作られるのかよくわかっていない。私の臨床経験ではどうも自分を責める気持ちが自己抗体を作らせ、自分の身体を傷つけているのではないかと最近考えるようになった。医学的根拠があるわけではないがそのように考えて対応したほうが病気の予防・再発の予防につながるのではないかと思えるからである。

 もし、自分を責める心の働きが、物事を思いつめることであるとすれば、その思い込みが大脳辺縁系の心の作用である情動すなわち激しい怒りや、憂い、かなしみなど感情の作用として自律神経、ホルモンのバランスに影響して、免疫系に作用して自己抗体の産生を刺激し、自分で自分の身体を破壊するのではないかと考えてみたのである。

 そのような仮定にたって自己免疫疾患の患者の心のあり方を軌道修正するならば、自分を責めないで、自分をいたわるように病気にたいする考えを切り替えればよいのである。すると自分を攻めることから心が解放されるので自律神経の緊張が緩み、病勢も弱まり、薬による治療効果も上がるのではないかと考える。

 一方自分を責める心が自分の魂を責めた場合にうつ病になるのではないかとも考えてみた。自分を責め続けることが度を越してくると心も身体も自己破壊を起こす身体の仕組みがあるのではないかと考える。すると病気の治療や予防には自分をいたわることが大事になってくる。