ガスがたまって腹が張る

ガスがたまって腹が張る

(平成22年4月15日)


 最近腹が張ってガスがたまっているような気がするという人が外来にときどき見える。

 ガスがたまるという状態は、現代医学的には病気といえるほどの状態ではないが、当人にすれば常に腹に気が向くわけだから日常生活を不快にする出来事であることは間違いない。

 現代医学ではまず胃カメラや大腸ファイバーの検査をして、胃腸が詰まるような内臓の病気が無いか検査をする。大部分が異常無しであるからあとは整腸剤でも処方しようということになるが、不快感は取れず、原因不明となると本人は困ることなる。

 漢方では腹が張る場合、陰陽で大きく二つの病態に分ける。陽証の病態では腸が便で詰まって張る場合で、気力体力も充実した元気な人で便秘を伴って腹が張る場合である。もう一つの陰証の腹部膨満は、ものは詰まっていないのに腸の動きが悪く、ガスがたまって腹が張る場合である。これは腹が冷えて腸の動きが悪く便が停滞するため、腸内細菌によるガス産生が長時間続くため大量のガスが大腸に溜まり、腹が張る。陽証の腹部膨満に対しては大黄の入った下剤で下すのが治療の基本であるのである。ところが陰証の腹部膨満は下剤でストレートに下すと更に症状が悪くなる。下剤は腹を冷やすので腹の冷えを更に助長するからである。陰証の腹部膨満は胃腸を温めなければならない。

 ところで陰の腹部膨満の原因の腹の冷えは何故おこるのだろうか。

 胃腸が弱いのに冷たい飲み物や食べ物で腹を冷やす場合は冷えの原因が直接的でわかりやすい。腹部の外科手術のあとから調子が悪いという人も時々いる。お腹を切り開いて手術をすると直接内臓を体温より低い外気にさらすので、腹が冷えるということは比較的容易に理解できる。ところが手術による腹の冷えは、以前と異なり腹壁の数箇所に穴をあけて行なう内視鏡手術が主流となりつつあり、外気で直接内臓を冷さないので手術による腹の冷えは大分改善されてきた。

 最近外来に見えた方は大腸検査の後から、どうも腹がはって調子が悪いという。そのとき検査で大腸ポリープが見つかり、そのあとで更に内視鏡手術を受けたという。この場合の腹部膨満の原因は大腸の検査と手術をするために大量の下剤で大腸をきれいに洗腸するという術前処置で繰り返し腹を冷やしたことが原因ではないかと考えられる。大腸の検査や手術の前に冷蔵庫で冷やした2リットルほどの下剤を一気に飲んで便を下して腸をきれいにする。そのときに胃腸を冷やすのである。多くの人では腹が張る症状は起こらないと思われるが、たまに腹の張りが長く続く人もいるようである。西洋医学では下剤で腹が冷えて具合が悪くなるという病気の考えかたが無いので、大腸検査後に具合が悪くなる理由がわからないのではないかと思う。

 漢方で下剤は発熱性の病気が進んで解熱剤などの発汗で脱水になり、腹が張って便秘する状態、すなわち腸に熱をもって便秘するときに胃腸の熱を排除する目的で使う。つまり下剤は腸を冷すのである。したがって大腸の検査のときに飲ませる冷蔵庫で冷した大量の下剤が腹を冷やすことは当然のこととうなずける。

 腸は冷えるとその動きが鈍くなり、腸内容物が停滞し腸内細菌によるガスの発生も増え、ガスがたまり、腹が膨満してくる。手術による癒着で腸に狭い部分があると腸がガスで拡張して圧迫され腸閉塞になることもある。胃腸の丈夫な健康な人はともかく、胃腸の弱い人は大腸の検査に伴う腹の冷えによる不調が起こりやすいので要注意である。

 先に紹介した方は胃腸科に通っても原因がわからないためイライラして不安もつのり動悸が起こってきたという。精神的な要素まで加わると自律神経の症状が加わり、病態が更に複雑になりわかりにくい。

 治療は冷えた腸を温めることである。漢方では腸を温める処方がいろいろ用意されているので、病態がわかれば治療に困ることは無い。大建中湯や小建中湯が代表的な腸を温める漢方薬である。