広島でヤクザとケンカをした話

仲原漢方クリニック
仲原靖夫  
 真幸先生が学生の頃ヤクザとケンカをしたことがあったことを話された。
 先生がまだ学生の頃、或る時広島市の繁華街を歩いていたら、若い男に『お兄ちゃん火を貸してくれ。』と話しかけられた。先生は素直に『悪いけど今マッチを持っていないのでこれでマッチを買ってくれ。』と5円を渡したら『俺を嘗めているのか!』と相手が怒りだした。すると先生は『僕は素直に答えたのに何が悪い。』とやり返したら大騒ぎになって、警察官が来て二人とも交番に連れて行かれた。その時お巡りさんが呆れて、『お兄ちゃんは本当に医学部の学生さん?!』と云われたそうである。それから広島のやくざの間で広大医学部の上原真幸というと名前が知られていたという。時は昭和40年前後で広島やくざの全盛期、東映映画『仁義なき戦い』の舞台になった頃の事である。そんな中でも真幸先生が恐怖心を超えて素直に対応しておられたことを示すエピソードであると感じた。
 また卒業して大学病院に勤務していた頃のことであった。やくざの親分が入院して睨みを聞かし、職員が戦々恐々としていた。先生はその患者の主治医で、その人が『変なことをしたら命はないと思え!』とドスをきかしてきたので、『俺は外科医だ。殺しは俺の方が専門だ。』とやり返したら相手はおとなしくなったと言われた。その後、患者と主治医の関係での付き合いがあったようであるが具体的な事はきいていない。ただ退院した後の通院で会った時、その人が『先生、(殺した)相手の墓参りをしてきました。』と報告されたと云う。
 先生は『善の核は悪で、悪の核は善だよ。やくざは悪だとみんな思っているけど、あの人たちこそ正義に対して最も敏感であることがわかったよ。』と云われた。先生は善悪を超えていのちの姿を見つめたところからヤクザとも対応しておられ、野性のすごさを感じたことであった。

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